大伴旅人の異母妹の大伴坂上郎女である。彼女は穂積皇子に愛され、皇子の死後、藤原麻呂や大伴宿奈麻呂と結婚した。恋多き女ではあったが、白髪が生えるほどの年になってもまだ、これはどの恋に巡りあうとはという驚きが、こめられている。『万葉集』の時代はしかし、驚きながらも、老いらくの恋はよくないという感覚はなかったのだろう、それを歌ったものがずいぶんある。“今はあらじと我は思へるをいづくの恋そつかみかかれる”(恋をすることはもうあるまいと私は思っていたのに、どこぞの恋がつかみかかってきたか)これは穂積皇子の孫娘、広河女王の歌。“事もなく生き来しものを老いなみにかかる恋にも我はあへるかも”(問題もなく生きてきたのに、こんな恋に私は巡りあってしまったよ…)。これは太宰府の三等官である大伴宿祢百代の歌。地道に生きてきた晩年になって、激しい恋に落ちたことが想像される。“百歳に老い舌出でてよよむとも我はいとはじ恋は益すとも”(百歳になって、老いて歯が抜けて舌が出てきても、私は気にしない。恋はつのっても)作者は大伴家持。十歳以上年上の紀郎女が不安を漏らしたのに対し、応えた歌だ。
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