とくに心掛けたのは、教習時間でした。当時、自動車教習所というのは、教習時間をできるだけ長くかけることばかり考えていました。人が集まりやすい教習所ほど、その傾向が強く、たとえば島根県なら三十時間で卒業できるところを、東京では四十時間かけたりするのです。それでいてゲストがなかなか卒業できないのは、自分たちのせいでなく、「ゲストの覚えが悪いから」としていました。ただ私は、教習所側の気持ちがわからないわけでもありません。経営的には、長く時間をかけて卒業してもらうほうが儲かるという事情もありますが、もう一つ、「寂しい」という気持ちもあるのです。卒業してしまえば、そのゲストとは、もう二度と会うことはありません。せっかく打ち解けてきたのに、それはあまりに寂しい。せめてもう少し、ここにいてもらいたい。そんな「情」のようなものが働いて、教官はつい教習時間を長くしてしまうのです。しかし、それはこちらの勝手な理屈にすぎません。ゲストからすれば、少しでも早く免許を取得したいのです。教習所がサービス業であるかぎり、ゲストの希望に応えなければなりません。ですから、インストラクターには、できるだけ早くゲストを卒業させることを、創業当初から強く求めてきました。「東京が四十時間なら、うちは十時間少なくしなさい」というわけです。十六日間のストレートで卒業できなかった場合、追加料金をいただかないのも、そんな発想があるからです。「十六日間で卒業できます」と謳っていながら、できないゲストがいたら、それは教習所側に責任があります。ゲストは誰しも、ストレートで卒業したいと思っています。その希望を叶えられなかったのですから、お詫びにお金を返さなければいけないほどです。それなのに、お金を追加請求するなど、私がらみれば本末転倒です。これがゲストと教習所のあるべき関係で、「ゲスト」「インストラクター」という呼び方には、そういう意味も込められているのです。
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