現役の翻訳家に多いのは、たとえば小説を書こうと修業を積んできた人が、どこかで翻訳に転じるものである。似た例をあげれば、新聞記者、学者や研究者などから翻訳に転身した人もいる。少し性格が違うが、編集者から翻訳者に転じた人も多い。たいていの場合、三流のものを自分で書くより、一流の原著を訳すほうがいいと考えて、翻訳に転じている。この道筋を歩んで、たとえば小説の翻訳を職業としている翻訳家が、自分で小説を書けないわけではない。おそらくは、書店にならんでいるたいていの小説よりすぐれたものを書く力をもっている。しかし、その程度では自分で満足できないのだ。つまり、この道筋を歩んできた翻訳者は、自分に課す基準が高い。翻訳の際にも当然、基準を高く設定している。簡単には妥協しない。だから、一流の翻訳家にはこの道筋を歩んできた人が多いといえる。